予防医学といふもの

ちりん氏を中心に,予防接種の有効性についてのディスカッションがアツイ。
何か私も…と一瞬考えたのだが,思うところあって,直接の言及は避ける。一般論を1点だけ指摘しておきたい。
医師の仕事は「病気を治療すること」ではナイ
ということである。言い過ぎだが,法的には事実である。医師法によれば

第1条 医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。

というのが医師の定義である。もちろんこれは国家からみた医師であって,だからこそ一人の患者より国民全体が意識されているのだが,それにしても医者の判断の基準は
その治療を全員にしたとしたらどうか?
が基本である*1
多くのサイトでも指摘されているように,予防医学の立場からみると

免疫力の弱い子供が危険なので予防接種を受けたらいい、という主張のようですが、免疫力が弱すぎて予防接種を受けられない子供たちのことを指しているのです。彼らのためには、「流行させない」という対策しかなく、そのために健康な子供がワクチンを受ける必要があるのです。

というちりん氏の主張は正鵠をついている。しかし,現在日本では,法的に強制されている接種はほとんどない*2。すなわち「予防接種を受けない」という選択は,法的に許容されている。それを許しているのは法であり,社会であり,国である。批判するならそちらを問題にする方が建設的だと思われる。医師・医学生の立場から個人に言えることは「予防接種を受けないことは,人の健康にも被害を与えることだ」という事実を提示することのみだろう*3

*1:もちろん患者は一人一人違うので,だからといって「同じ病気には全員同じ治療をする」ということにはならない。逆に言えば,どこまでの差を「無視」するかで「全員」はその意味も数も,全く違ったものとなる。

*2:それどころか,多くの予防接種は「任意接種」である。つまり,「受けたいものは自腹で受けよ」というのが現状である。

*3:同種の典型がタバコである。もっとも効果的な禁煙政策はタバコの販売を禁止することだが,それを真剣に議論し推進することより,喫煙者個人にタバコを吸わせないことを人は選択しがちである。