溝は埋めるべきか?

昨日の続きです。

id:CROCODILETEARのLEE氏が更新を停止された。国試直前の身にあられては当然かとも思うが,

僕は、ここに来ている人々がその一翼を担える人間であると信じている。
能力を持った者には、それを正しく行使する責務がある。
あなたたちには医師−患者間相互理解の発展に挑んでもらいたい。
遠くない未来に、医師−患者間の無用な軋轢がこの世からなくなることを信じている。
ひいては、僕の過去ログを、あなたたちのサイト運営に役立てて欲しい。
屍(閉鎖サイト)は生ける師なり。
なお、自ら「医学的な記述の正確さ」と「気軽に読めること」の両立を目指しながら、道半ばで挫折してしまったことを心より恥じる。

という辞を拝見するに,ここ数日のディスカッションが,「続けよう」というよりは「少し早めに停止しよう」という方向に働いたのであろう事も否めない。だが,それが「医師-患者関係を悪くしたのではないか」と心配されてのことだとしたら,私は杞憂だと思う。氏の2/6のエントリーに対するid:an_accused氏の

たしかに、人に何かを伝えるのは難しいですね。今回の議論は、世界から感染症を駆逐したいという医師の言説と、かけがえのないわが子をリスクから守りたいという親の言説とがぶつかり合ったものであったと捉えています(それぞれの言説もまた一枚岩ではないのですが。)

というコメントは,実に状況を的確に表現して下さっている。「世界から感染症を…」というと少々大袈裟かもしれないが,少なくとも「目の前の患者が助かれば他の人なんて…」と考える輩は医者ではない。だが,それが人間というものだ*1。いみじくもid:chisya氏は自らのブログ(2/6)でLEE氏のの日記に触れて

認識がアマいと非難することは簡単でしょうけれども、待合はいっぱいで、子どもの処置は面倒で、リスクはあって、親はド素人なんです。

と書かれた。至言である。

「ひどいこと書いちゃったかな、ごめんなさいデス。
て、もうみてくれないだろな…」

と自らコメントされているが,全くひどいとは思わないどころか,
当然のことに今更気づかされた
という思いを強く抱く。昨日も書いたことだが,この差は結局の所知識の多寡でも,人間性によるものでもない。「立場」による*2ものだ。同じ病院という場所にいようと,同じ医療と接しようと,この差は埋まるものではないし,埋めるものではない。医師-患者関係とは,両者が同じ方向をみるところにあるのではない。違う方向をみているもの同士が,それと知りつつ医療という行為を通してつながっているところにあるのだと,私は思う。

*1:もっとも,医師だって,病気になれば医者にかかるし,人の親だったり子だったり,連れ合いだっていたりするものだ。患者にしたって同じである。「言説が一枚岩でない」のは,決して知識の中身やレベルの違いだけによるのではない。

*2:知識は認識を変えるものだが,立場を超えて変わる認識などざらにはない。