免許について本気出して考えてみた:1 医学生から医者になるまで

こんな時お前に乗れないなんてこんな話が出てくるところに,何だか「見えざる手」を感じてしまうのだが,せっかくなので医師免許証について考えてみることにする。だがその前に,医師国家試験*1に合格してから医者になるまでのプロセスを説明しておきたい。
そんなことは医師であれば一度でも医者として,つまり病院で,働いてみればイヤでも頭に入ることだし,医師でなければどうでもいいことである。では,誰のためにそれを書くのかと言えば,これから医師になろうという人のために他ならない。実際,厚生労働省「新社会人に苦労させまい」とする,何というか実にもう親心に溢れたお役所*2,以下の事項は医師国家試験頻出*3である。しっかり記憶し,合格後に夢を馳せていただきたい…が,むしろゲンナリしてしまうかもしれない

89A-9 医師として業務を行うことができるのはいつか。
a 医師国家試験に合格したとき
b 医師国家試験合格証書を受領したとき
c 医師免許の申請が受理されたとき
d 医籍に登録されたとき
e 保健医に登録されたとき

医師法によれば

第六条 免許は、医師国家試験に合格した者の申請により、医籍に登録することによつて行う。

つまり,医師とは「医師国家試験に合格した人」ではなく「医籍に登録されている人」のコトである。こういうのを「問題のための問題」というのだが,お医者さんになるまでのステップは確かにこのようにまとめられる。ちなみに,医師法には

第十五条 医師国家試験又は医師国家試験予備試験に関して不正の行為があつた場合には、当該不正行為に関係のある者について、その受験を停止させ、又はその試験を無効とすることができる。この場合においては、なお、その者について、期間を定めて試験を受けることを許さないことができる。

なんてコトまで書いてあって,試験の度*4親心溢れるお役人様から聞かされることになる。コレは「記銘力障害を持つ患者への傾聴姿勢」を問うOSCEであるので,決して運動暴発を起こしてはならない「謹厳実直少なし仁」等と叫ばないように,特に注意されたい。(^_^;)
そんな数多の試練を経てメデタク国試に合格すると,受験生はホームページなり厚生労働省なりで,自分の番号を確認*5できる。どうでもいいが,その日の厚生労働省*6前には予備校のビラを持ったお兄ちゃんお姉ちゃんが大挙しており,大変感じが悪い。
しかして胴上げしてみたり地下鉄で号泣してみたり,あるいは早速ビラを破り捨ててみたりした後,受験生はどこに向かうか?何とコレが「保健所」である。実に不思議なことに,厚生労働省では免許申請を受け付けてくれないのである。ここで重要な注意を一つ。その日に保健所に行ってはいけない。私は不覚にも合格発表のその足で保健所に向かってしまったのだが,残念なことに門前払いを食らってしまった。なぜなら,保健所の担当者は合格者名簿を持っていない*7からである。
数日すると点数付きの合格証がハガキで送られてくる*8ので,ここは忍の一手である。受験申し込みの時に書いた住所に送られてくるので,郵便局にはちゃんと住所変更を届けておくこと。コレを持って改めて保健所に向かうと,ここでやっと申請書を受理していただけることになる。
で,申請から実際に免許証が届く*9までであるが,私の場合約2ヶ月であった。コレでは仕事にならぬので,親心溢れる厚生労働省から「仮免許」が送られてくる。これがまた例によってただのハガキ*10なのだが,とにかくコレで自分の医籍番号を知ることとなって,晴れて「医師」を名乗ることができる*11。おめでとう…と言いたいところだが,まだ終わりではない
仮免許が届けば保険医*12登録である。だが,ここで保健所に向かってはならない。健康保険の管轄は国(厚生労働省)でも市(保健所)でもなく県であり,その出先機関社会保険事務所である。こういうのを縦割り行政という*13のだが,今だけのお付き合いではない。転勤で働く県が変れば,保険医登録も変更になるのだ。ここはじっと権力のイヌとならねばならぬ。間違っても感情暴発を起こしてはならない。神妙に仮免許を提出し,「保険医になって,この県の医療費を切りつめたいです」と頭を下げるのである…というのは,もちろんウソである。イランことは言わなくてよろしい。
これらの資格を取得することで,晴れてアナタは医者として病院で働くことができる。今度こそ,おめでとう。

  • 追記

大変なことに気づいてしまった。この記事が最も役に立つ人。それは偽医者になりたい人ではないのか!?

*1:と本文にも書いてみるテスト。(^_^;)

*2:その分,社会人になる前にいらん苦労をするワケだが。

*3:もぉえぇっちゅうねん!(~_~メ)

*4:現在の国試は3日間9回に分けて行われている。

*5:私のときはネットでは番号のみ,名簿は(確かカタカナで)名前つきであった。今どうなっているかは知らぬ。来年受かった方報告して下さい。

*6:厳密に言えば環境省も同じビルだが。

*7:私は受験票を見せ,ホームページで確認できると主張したのだが,あっさり却下された。確かに,ホームページにも「これは参考なのでちゃんと名簿で確認するように」という但し書きがある。それができるなら初めからそうするであろうに,だ。さすがに日本の役人は抜け目ない。

*8:不合格でも同じハガキだとか。

*9:届けられるのは保健所なので,改めて取りに行かねばならない。

*10:しかもこれには「有効期限」の記載があって,ホンモノが届く前に期限が切れるんじゃないかとヒヤヒヤした記憶がある。

*11:これを「名称独占」という。

*12:健康保険を請求できる医師のことを保険医という。言い換えれば,保険証を必要とする医療は保険医でなければできない。これが「業務独占」で,その意味で保険医は「医師」と「医者」を分ける資格と言える。研修義務化は当初研修修了まで保険医登録を認めないという話であったが,今でも医師なら誰でも取得できる(cf. harrity先生のコメント)ようだ。

*13:書いてて気づいたが,保健所って国の出先機関で,かつ市町村の機関なんだね。まさに「ショカツ」だよね。