聴診と体位(完結編)

さて,何を今更と我ながら思うが,国試採点除外問題ネタの続きである。
前回は心臓が左に45°前に45°傾いていることを根拠に,心房中隔欠損症が×であることを述べて終わったのであった。心房中隔欠損症なら臥位でも坐位でも孔を通る血流の向きはほとんど変わらないということを長々確認したわけだが,では血流の向きが変わるならどうなるのだろうか?
川の水がただ流れていても,ほとんど音はしない。音がするからには,水は何か当たっているわけである。本問であればそれが僧帽弁なり大動脈弁なので,その当り方が普通ならただの心音だが,普通でなければ,人はコレを「雑音」という。地球には重力というモノがあって,水は高いところから低いところに流れる。ゆく川の流れが絶えては鴨長明も浮かばれない。「臥位より前傾坐位でよく聴取される」からには,普通でない流れは頭からおしりに向かうはずである。これでbとcが消え,後はa or dの2択である。
さて,ここからは心臓内部の立体構造がイメージできないと少し難しい。心臓は前に傾いているから,心房は心室の後ろにある。よって,左右問わず房室弁は基本的に動脈弁の後ろにある。前傾坐位を取れば,心室は胸板*1に近づく*2が,心房は*3ほとんど動かない。モノが前に来れば音は聞こえやすくなる*4。よって,正解はd。
なお,僧帽弁狭窄症の雑音が増強する体位としては左側臥位が知られているが,改めて説明の必要はないだろう。くどいようだが,心臓は左に45°前に45°傾いている。聴診はもとより,エコー*5,CT,MRI*6においても,これが全ての基本である。これから国試*7勉強を始められる方には,本問の背後に下記の問題があることをしっかり理解していただきたいと思う。

96B13

正しいのはどれか。
a 大動脈弁は肺動脈弁の左前方にある。
b 上行大動脈は右肺動脈の後方にある。
c 右心室は左心室の右後方にある。
d 右心房は左心房の後方にある。
e 上大静脈は右肺静脈の前方にある。

<補足>
bに引っかかりそうになるかも知れないが,大動脈弓は肺動脈の前から後ろへループしていることを思い出そう。なお,eは要するにdの逆で,確かにその通りではあるのだが,これらはそもそも同一平面上にない。出題意図が今ひとつ分からない選択枝である。臨床の先生で分かる方がいらっしゃいましたら,是非ご教示いただきたく存じます。m(__)m

*1:解剖学的には胸壁。

*2:心尖はどこにも固定されていない!

*3:大静脈・肺静脈で固定されているので。

*4:前回の最初に述べた。

*5:まっすぐ当てても4-chamber viewは出ない!

*6:忘れてた。心電図もだ!

*7:何だかみみっちいですね。「臨床の」と言っときますか。