Cyclopia

そこここで目にはしていたものの取り上げることを躊躇していた話題だが,koneko04さんからコメントをいただいたので,簡単に触れておくことにする。
一つ目のこねこ
http://d.hatena.ne.jp/koneko04/20060113
結論から言えば,このネコと同様の先天異常はヒトにも存在し,「単眼症」(cyclopia)という病名も付けられている。「どうしてこのようなこねこが生まれることがあるのか」であるが,発生初期*1に,胚子の正中部の細胞が何らかの原因*2で失われることで起きると考えられている*3
文章だけで説明するのは無理がありすぎるが,一応説明してみる。この時期の胚子(胎児)は,笹かまぼこのような形である。やがて笹かまぼこの背中側の表面(外胚葉)に凹みができる。この凹みは深く長く,ついには筒状になって笹かまぼこの中に潜り込む。これを神経管と呼び,将来の脳となる。
このとき,凹みの真ん中(底)に大きく包丁を入れたらどうなるだろう?筒が上手く作られない*4のはもちろん,笹かまぼこ自体の形も大きく変形してしまうだろうことは想像に難くない。大雑把に言って,この結果筒が小さくなり,この筒から飛び出した突起である両眼*5がくっついてしまったのが,単眼症と考えられている。なお,鼻は眼より頭方に発生し,眼球が形成された後で眼の下に降りてくる*6。単眼症では降りようとする先に眼があることになるので,通常鼻は眼の上に存在する*7。当然外見以上に脳の異常は深刻であり,ヒトでもその生存は絶望的である。
したがって,koneko04さんがコメントされた「大きくて澄んだ瞳が痛々しげにみえます」については,(koneko04さんの感性を否定するつもりは毛頭ないが)医学的にはむしろそのような外見上正常な瞳が形成されたことこそが驚異的に思われる*8。実際,単眼症に関する記載,特に症例写真は一般にはかなり刺激が強いと思われるので,Referenceは挙げないことにする。興味のおありの方は,自己責任で検索していただきたい。ここでは
おめでとう。 http://memoru.babymilk.jp/sannba/sannba26.html
サンバのおはなしより。)
をご紹介するだけに留めたい。単眼症の実際の経過を知ることができるという点でも,貴重な文章だと思う。

*1:ヒトでいえば発生3週。

*2:劣性遺伝することが知られており,その遺伝子も特定されている。また,アルコールやトリソミーも原因として知られているが,一般に先天異常の90%は特発性(原因不明)であり,単眼症も例外ではない。

*3:エラソウに書いているがこの方面には非常に疎いので,全て教科書の受け売りである。以下同様。

*4:筒になる部分がごっそり抜けてしまうのだから。

*5:だから眼は単なる感覚器ではなく,それ自体が脳の一部である。

*6:以前触れたように,個体発生のみならず系統発生もそうである。なお,新生児では鼻はほぼ眼と同じ高さにある。

*7:このとき鼻孔も通常1つであり,長く垂れ下がる傾向にある。これを象鼻といい,サイクロップスの角はここから発想されたという説がある。

*8:鼻は形成されていないようだから尚更だ。