聴診と体位

「僕たちの正月は4月だ」の新年度で予告編ばかり溜まってしまっているが,旬なネタということで,このテーマを先に取り上げておくことにする。
なお,毎年のコトながら厚生労働省は除外問題を公開している*1が,TECOMがhtml化して下さっているので,そちらをまず引用しておく。

−第99回医師国家試験における採点除外等の取扱いとした問題の取扱いについて−

■B 38問
38 心雑音が臥位より前傾坐位でよく聴取されるのはどれか。
a 僧帽弁狭窄症
b 僧帽弁閉鎖不全症
c 大動脈弁狭窄症
d 大動脈弁閉鎖不全症
e 心房中隔欠損症

採点上の取扱い
採点対象から除外する。

理 由
問題として適切であるが,必修問題としては妥当でないため,採点対象から除外する。

Bed-side Learning(BSL)の重視を謳う最近の国試らしい問題であるが,これが採点除外となった(おそらく正答率が悪すぎた)という事実は,医学教育とりわけ臨床実習の現実を実によく物語っている。本問は(出題サイドとしては)「必修レベル」であり,それこそ脊髄反射答えられなければならない(とされている)のだろうが,今回はそこをあえて解剖学的に考えてみる。このような試みが医学生・臨床医家のお役に立つものか些か心許ないが,何某か資するところがあれば幸いである。
さて,「臥位*2より前傾坐位でよく聴取される」とあるが,体位によって雑音がよく聴取されるようになるとすれば,その理由として

  1. 雑音自体が大きくなる
  2. 雑音の発生部位が胸壁に近くなる

の2つが考えられるだろう。ここで重要になるのが心臓は水平垂直ではないという解剖学的事実である。
よく「心臓は左にある」というが,これは間違っている。心臓はあくまでも真ん中であり,先端(心尖部)が左に傾いているだけである。同様に,心臓は前にも傾いている。すなわち心尖部は心臓の真下ではなく,左斜め前になる。したがって,心贈は臥位でも坐位でも,斜め45°傾いていることになる。
とは言え,文章で説明してもなかなかピンとこない*3ので,実際に試してみよう。
まずは下敷きを一枚用意してほしい。これをまず体の正面で胸骨と垂直に置く。それを左に45°前に45°回してみる。これが心臓中隔の位置となる*4
この状況で下敷きに孔が開いていればどうだろう。臥位でも坐位でも孔を通る血流の向きはほとんど変わらない*5。したがってeはバツ
さて,今度は下敷きを胸骨と水平に置いて回してみよう。これは心房・心室の位置を表している*6。もっとも前面にあるのが右心室,後面にあるのが左心房になれば正解。

続きは4/14の日記で!

*1:それもなぜか決まってpdfで。ジャギーと傾きっぷりからして,Fax文書そのままなのだろうが,なんでpdfなんだ?OCRしろとは言わないが,普通の画像形式(tiffとか)ではいかんのだろうか?

*2:臥位といったって腹臥位(うつぶせ)と仰臥位(あおむけ)があるが,心音の聴取ということで,ここでは仰臥位に限定することにする。それにしたって側臥位だって臥位なわけだが。

*3:平面の図で見ても,なかなか分からないものだ。こうして解剖ギライは胸写ギライ,胸部CTギライへと姿を変えていく。

*4:試験場でコレをやったら,監督につまみ出されること請け合いである。

*5:座ったり寝っ転がったりしてやってみて下さい。

*6:下敷きをノートに換えて,十文字を書くと分かりやすい。