医師倍増計画:Chapt. 1 モノ

医師国家試験も終わった*1ばかりというのに,大学は入試ムード一色である。そんな中,なんとなく医学生が2倍になったらどうなるか夢想してみることにする。まず,受験生には一番神経逆なでであろう,「定員」の問題から考えてみたい。
さて,現在医学部医学科の定員は全国でおおよそ8千人であるが,コレを2倍にするには大きく,

  1. 医学部医学科の数を2倍にする
  2. 医学部医学科の定員を2倍にする

の2つの方法が考えられる。しかし,例えば教室の大きさ一つとっても現存の大学は現在の定員を元に設計されている*2ので,前者の方法が現実的だろう。実際,これはあながち夢想ではなく,この国でもかつて実際に行われた実績がある。
http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpaz199501/b0067.html
これによれば,昭和40年から昭和60年にかけて,学校数は46校から80校とほぼ倍増,定員数に至っては3560名から8340名と倍以上の伸びを示している。当然,
http://www.toishin-president.jp/environment.html

 「医師が足りない」「それっ!医学部を増やせ!」
 「歯科医師も足りない!」「それっ!歯学部を増やせ!」といった場当たり的な政策はたちまちにして「医師過剰」「歯科医師過剰」の問題を露呈する事になったのである。
 さすがに医科大をつぶすような事はなかったが、まず国立大医学部を中心に入学定員の削減をはかり、またこの定員削減は順次私立医科大にもおよび、各大学とも定員の5%削減、さらに水増し合格を認めない「定員厳守」の徹底を行ってきたのである。
昭和60年度以降の医学部入学定員総数は8,400名にものぼったのであるが、平成16年度における入学者数は国立大医学部3,675名、公立医学部655名、私立大医学部2,759名。総計7,089名と言う事であるから、じつに約1,300名(約15%)減を達成した事になる。
20年間に15の医学部がなくなったことにも等しい。

というコトになったのであるが,これもまた,この20年間の出来事である。
奇しくも現在,「医師大杉」という政治的立場と「医者足りねぇお」という現場的感覚の対立が表面化しているが,このような歴史を見ると,それが決して偶然ではなく,むしろ20年目の必然であることが理解できる。逆に言えば,現在の医学部の定員ないしその(地域ごとの)内訳は,20年先の医師と医療の姿を左右するモノであって,6年後のそれを変えるモノではない。その成果と課題も,6年後ではなく20年後に表面化することになるだろう。香川医大*3の事例
http://www.shikoku-np.co.jp/feature/tuiseki/093/
は,この法則が県の単位でも成り立つことを示すものと言えるだろうし,昨今激増している地域医療・地域医大に関する報道も,コレを裏付けるものと言えよう。今のところ,医学部の定員数に大きな変化はない*4が,「現状維持」がその答えとなったものと考えるには,まだ早計なように思われる。

*1:皆さんお疲れ様でした。<_o_>

*2:当然,教職員の配置や教育カリキュラムもこれに倣う。

*3:現在は香川大学医学部。

*4:むしろコメディカル分野では,この10年間に大学数の大幅な増加をみた。薬剤師など一部を除いて,医療系資格は専門学校教育によるモノが大半であり,その多くが専門学校の大学化によったので,定員数が増加したわけでは必ずしもないが,多くの職種で状況は既に乱立から淘汰へと移りつつある。