のど沈考

先日,綿棒の呟き血液型占い看護研究に突っ込みを入れたところ,看護研究が来た道にご解説を頂いた。いつもながらのご高配,心より感謝申し上げます。m(__)m
その感想もぜひ書かせていただくつもりであるが,私の
> 咽頭喉頭の違いが分からない学生が意外と多いと知りました。
というコメントを見て焦っておられる受験生がいらっしゃるかもしれないので,取り急ぎ説明しておくことにする。もっとも,解剖学は「かたち」の学問である。文章だけではなかなか難しいので,Referenceも参考にして頂きたい。
さて,一般に「のど」と呼ばれる部分は,解剖学的に「咽頭」と「喉頭」からなる。辞書を見てみると,咽頭とは

上は鼻腔(びこう)に、前は口腔の後下部に、下は喉頭(こうとう)と食道に挟まれた部分。

で,喉頭

咽頭と気管の間の部分。甲状軟骨・喉頭蓋軟骨をはじめとする六個の軟骨で囲まれている気道の一部をなし、中央部に声帯を有する。

んだそうである。何だか

性交:男女が合体すること
合体性交のこの辞典における婉曲的表現
 なんじゃそりゃー!(x。x)゜゜

とかやってたウブな思春期を思い出すのだけど*1,まぁ辞書だの教科書だのというのは,分かりやすさより正しさが優先される代物なんで,よくわかんないのは半分仕方ない。だからこそ私どもはそれを説明することでおまんまがいただけるわけである。

ではでは。解剖学者としては,これをどのように説明したらよいだろうか?ちょっと実験してみよう。
まず,大きく口を開けてみて下さい。で,

大きく息を吸ってー。はい,止めてー。(ブーン)はい,もういいですよー。

かくしてレントゲン写真は撮られるわけである。ではもう一度。大きく口を開けてみて下さい。絶対閉じちゃダメですよー。では,

大きく3つ(/\)チャチャチャ 。小さく3つ。(/\)チャチャチャ
ちょっといいとこ見てみたい。はい,イッキ,イッキ,イッキイッキ!*2

できましたか?できないですね。アルコールを苦手とする方には,もっと簡単な実験もある。

大きく口を開けてー。そのままツバ飲み込んでー。

ね,できないでしょう?(^_^;)

つまり,「のど」の中には仕切り*3があって,これを意識的に動かさないと,水は食道に落ちていかないわけだ。これを一般に「ゴックン」といい,医療人は「嚥下」という。解剖学の教科書には「咽頭喉頭の境は喉頭蓋である」と書かれていることが多い*4。結局,水(なり食べ物なり)を口に入れれば,咽頭までは入るが,喉頭にはゴックンしなければ入らないということだ。

では,なんでわざわざ咽頭喉頭の間に仕切りが必要なのだろうか?言うまでもなく,私たちの喉は,水と食べ物だけでなく,空気の通り道でもあるからである。空気が食道に入ってもゲップくらいで済むが,水が気管に入れば立派な誤嚥*5である。だから,水や食べ物が喉を通るときには,必ず気管を塞いでおかなければならないのだ。

私たちは鼻でも口でも息をすることができる。当たり前のように感じるが,上記のようにこれはけっこう危険かつ面倒なことだし,別に口で息ができなければいけない道理はない*6。そもそも,水の中で生きる生き物に呼吸*7は本来必要ないものだ。例えば,ヤツメウナギは両側にそれぞれ8つ眼のようなものがあるが,本当の眼は一番頭のものだけで,残りの7つは「エラ」である。ヤツメウナギの腸はエラと接しており,エラに入った水から酸素を取り込むのは,この腸の仕事である。これは魚類でも本質的に変わらない。つまり,オサカナにとって,酸素はいわば「飲み物」である*8
陸に上がった我々では,こうはいかない。どうしても空気から酸素を取り入れなければ身が持たない。我々陸上の動物にとって,酸素は「食べ物」なのである。だから,我々は進化の過程で,腸管から空気専用の消化管を作った。それが気管であり,気管支であり,その更に細かい枝分かれである肺胞なのである。食道と気管は「つながった」のではない。食道から気管ができるのであり,気管から肺ができるのだ。

まとまりがなくなったが,無理矢理ヤツメウナギにつなげたところで,今日はお開き。長文ご拝読,心より感謝申し上げます。m(__)m
References
基礎解剖学講義ノート 第6章 消化器系神戸大学電子図書館(学内研究成果)解剖学講義ノート
ヤツメウナギ食べる淡水生物図鑑

*1:みんなやったことあるよね,ね,ねっ?(^^ゞ

*2:推奨しているわけではないので,念のため。あくまで「思考実験」です。アルハラは犯罪ですよ!

*3:喉頭のフタということで「喉頭蓋」と呼ぶ。

*4:これは機能的には正しいが,何しろ喉頭蓋は「動く」ので,境目としては今ひとつ曖昧である。じゃあどうすればいいかというと,ちょっと図がないと説明不可能です。興味のある方はメールして下さい。

*5:誤嚥と誤飲は全く違う。前者は入る場所が違うこと,誤飲は入るものが違うこと,である。

*6:声は声帯で出しているので,口がなくても鼻声は出せる。

*7:厳密に言えば外呼吸。

*8:酸欠に陥った金魚は酸素を口から入れて腸から吸収しようとするが,あれは酸素不足の水の中で金魚が「溺れて」いるのだ。