見学と実習の間

相変わらずFind Blogには信じていただけていないが,「アナトミストヤツメウナギの夢を見るか?」は知る限り,我が国唯一の解剖頚ブログである。
まぁ世間様にそう見られていないのは(はあと)とか寝言ほざいてるヤツの自業自得なので同情はしない。このような不逞な輩には,以下の一文でも読んで「寺にこもれ」と説教したいモノである。

初心者ともちぃの宝塚
http://happytown.orahoo.com/takaraduka/
解剖学実習〜献体
http://diarynote.jp/d/64446/20050224/

しかし、この前の新聞の投稿に
献体のときに遊びに行くような格好でうけ
返された遺体は他の人のも交じっているような状態で・・・」
というのがありました。
これは、献体の状況が不透明になっていることを示していると
思います。
だから私は逆に、この日記を通して少しでも実情を伝えたい
と思いました。

症腰先生には,是非彼女の爪の垢でも煎じてお飲み頂きたい。

  • …というわけで,もう少しマジメになってみます。

私は医学生ではないのでもうすでに解剖をされた状態にありました。

そこでみたものは、
はじめは食道を間違えてしまうほどの大動脈。
すぐにでもきれてしまうんじゃないかと思うほどの神経
長い長い腸に、CMのでみる形のままの胃
今まで習ってきた知識がリンクして広がっていく

本来解剖実習の価値は「所見」ではなく,その「プロセス」にある。一例を挙げる。
上腸間膜動脈という動脈がある。これは主に小腸に分布していて,だから間膜を通る*1が,間膜を剥がすだけでは,これを腹部から起始(大動脈)まで剖出することは,絶対に不可能である。間膜をたどればいずれ壁側腹膜に達する。壁側腹膜を剥がせば大動脈とご対面できるように思うのだが,ここで腹膜後器官である膵臓が邪魔をする。
つまり,上腸間膜動脈の起始は膵臓と大動脈でサンドイッチされているわけである。だから上腸間膜動脈は,膵臓に沿いながら,ほぼ垂直に腹腔に出て行くことになる。膵臓(の膵頭)は十二指腸に囲まれているので,上腸間膜動脈によって十二指腸が圧迫されて通過障害を来すことがあり,これを「上腸間膜動脈症候群」という*2

臨床的にも重要な構造ではあるが,おそらく文章では伝わらないと思う。実のところ,アトラスを見ても,そこにある図は大抵の場合,膵臓があって起始がないか,起始があって膵臓がないかである。これを「体得」するところに実習の価値があるので,「間膜を剥がし,膵臓を動かし,大動脈を見る」というマニュアルに沿っている限り,それは作業に過ぎない。
「動脈を追っていけばいいんだろ…あれ,できない。なぜできないんだ!?」
「あ,動脈の上になんかある。これが膵臓か!
という疑問と発見があって,はじめてアトラスの意味するところを知ることになるのだ。どんな解剖図も,それは解剖された「結果」なのだと。

まる1週間かけて、全身を観させていただきました
『人体とは小宇宙である』
まさしくそうだと思いました。本当に上手くできている
とっても複雑で効率的だった。

1週間実習できるというのは看護学生としては破格であるが,正直「見学」は見学。「実習」との差は大きい。看護学生に限らず,co-medicalの解剖実習の現状は恵まれたものではない。私達の解剖実習室を訪れるコメディカル学生の大半にとって,それは人生にただ一度の機会だろう。しかしそこで対面するご遺体は解剖というプロセスの「瞬間」であって,いわば2時間の映画のワンシーンの,それも「静止画」のようなものだ。ではあるけれど,だからこそ,そんな中でも何か一つ,知識の「確認」を超えた「経験」をしてもらいたいと願う。

ともちぃさんの1週間が,一生涯の力となりますように。
Reference
◎上腸間膜動脈症候群(SMA症候群)(井原医師会「知識の宝庫第24章 B」より)

*1:cf.続・ハライタの解剖学

*2:と偉そうに書いているが,私はこの疾患を間違って理解していた。上記の説明は,Referenceに基づいて訂正したものである。ご指摘頂いたてんぽ先生に,篤く感謝申し上げる。